柄谷行人を解体する

批評家・柄谷行人を―カント、マルクスを視軸にして―読む

キリスト降誕物語の仏教的特色

カール・カウツキー『キリスト教の起源』(法政大学出版局

 われわれがルカによる福音書で見るようなキリストの降誕物語は仏教的特色を示している。
 プフライデガーは論じていう。この物語はいかに非歴史的ではあっても、ルカの福音書の筆者は、これを勝手に案出したのではなく、「なにかの方法で筆者の入手した」伝説、おそらく西南アジア諸民族共通のごく古くからの伝説からとってきたものだと。「なぜなら、これち同じ伝説はところどころ驚くほど似通った特徴をもっており、手を加えられて、インドの救世主ガウタマ・ブッダ(キリストよりも五〇〇年前に生きていた―カウツキー)の幼少の時代の物語にあるからだ。ブッダも、奇蹟によって処女王妃マヤから生まれ、幼女の無垢の胎内にブッダもこの世ならぬ天の光がさしこんだ。彼の生まれたとき天なる精霊が現われて讃歌を歌いはじめる。『不可思議な類いなき英雄が生まれた。世界に慈悲あふれ、幸いがあるように。今日あなたは世界の果てまで善意をひろめたまう。一切有情やすらかに、自分自身の主となって幸いをえるため、歓喜と満足のきますように。』 それから彼もまた、法のさだめた慣習を実行するために、母につれられて寺院に詣で、そこで虫の知らせでヒマラヤからおりて来た老隠者アシタに見出される。アシタは預言する。この子供はブッダ、いっさいの悪からの救済者、自由と光明と不死にみちびく者となるだろうと。……そして最後に、この王子が日に日に、精神的にますます完全になり、肉体的にますます美しく強くなっていくありさまが総括的に描かれている――これはルカの福音書第二書第二章四〇節と五二節で幼児イエスについて述べられているところとまったく同じである。(40)」

 ユダヤ人の「聖なる」書が今日伝えられている形をとったのは、ユダヤ人がバビロンの捕囚から帰国してのちだいぶたってからで、紀元前五世紀のころだった。

彼ら(イスラエル人)の遊牧生活時代の物語はすべて、あるものは下心をもって手を加えられた古い部族伝説であり、あるものはおとぎ話であるか後代のつくり話である。

 オリエントの大河のいくつかの豊沃な流域には早くから農業が発達し、余剰食料を少なからず産出し、それによって農民のみならず、その他の多くの住民も生活し活動することができた。

貴族階級はもっぱら軍職に従事できただけでなく、近くの遊牧民が大河流域の富にひかれてこれを略奪しようとして侵入してくるおそれがますにしたがって、貴族階級はますます必要となった。

(40)プフライデガー『原始キリスト教』I、四一二。