柄谷行人を解体する

批評家・柄谷行人を―カント、マルクスを視軸にして―読む

人類史のなかの定住革命

萱野稔人神里達博『没落する文明』(集英社新書

萱野 農耕の始まりについては、筑波大学の西田正規さんが書いた『人類史のなかの定住革命』という本にも興味深い指摘があります。
 この本によれば、定住こそ人類史におけるもっとも大きな革命であり、それは気候変動によってもたらされた。つまり、約一万年前には氷河期が終わり、狩りをしながら移動する生活ができなくなったことで、人類は食糧を貯蔵しなければならなくなった。それで定住が始まり、農耕が始まったというわけです。つまり、農耕を始めたから定住するようになったのではなくて、その逆だというんですね。

萱野 イタリア生まれの社会学者、ジョヴァンニ・アリギは『長い20世紀――資本、権力、そして現代の系譜』という本のなかで、資本主義の歴史では、生産拡大の局面のあとには金融拡大の局面がかならずやってくると述べています。


http://www.higuchi-susumu.com/KIDALON.HTM
預言者エゼキエルの特質」
樋口 進
 木田献一先生は、その著『旧約聖書の中心』において、「旧約聖書の宗教は根本的に預言者
的な性格を持っている」と言っている。(1)そしてその場合の「預言者的」というのを、マ
ックス・ウェーバーの「倫理的預言」に基づいて説明している。M・ウェーバーは、その著
『宗教社会学』において、預言を「倫理的預言」と「模範的預言」に分けている。そして彼は、
倫理的預言は、「もっぱら西南アジアの預言に、しかも民族の区別なく見られる」と言ってい
る。(2)もちろん、旧約の預言者もこれに入る訳である。そして彼は、「倫理的預言」の特
質として、次のように言っている。「倫理的預言では、預言者は、神の委託を受けて、その神
の意志を−−具体的な命令であれ、抽象的な規範であれ−−告知する道具となり、そしてこ
の委託にもとづく倫理的義務として服従を要求する。」(3)このマックス・ウェーバーの所
論に基づいて、木田献一先生はさらに預言者の特質について次のように言っている。「預言者
的宗教の根本的な特色は、この世界を超える超越的な神が、究極的にはこの世界を支配して
いるという信仰にある。神の支配、神の主権は、危機的な場面において、預言者的人物を通
して啓示され、この世の権力の下に苦しめられている人々を解放し、救済する。」(4)これは、
旧約の預言者の特質を非常によく表していると思う。 職業的預言者とは区別されたいわゆる
「正典的預言者」は、(5)だれ一人自ら進んで預言者になった者はなく、普通の職業について
いた者たちである。それがある時突然、神の側からの啓示の体験を通して、いわば強制的に
預言者とされたのである。(6)預言者たちにとって、啓示体験は決定的な出来事であったと思
われる。木田献一先生も、「倫理的預言の根本的特色は、このように超世界的な人格的、倫理
的な神の啓示を受領し、その召命を受けることにあった」と言っている。(7)

(1)木田献一『旧約聖書の中心』、1989年、新教出版社、30ページ。
(2)マックス・ウェーバー、武藤一雄、薗田宗人、薗田担訳『宗教社会学』、1976年、創文
 社、77ページ。
(3)同上。
(4)前掲書、39ページ。
(5)木田献一先生は、古典的預言者をこう呼ぶ。木田献一『イスラエルの信仰と倫理』、1971
 年、日本基督教団出版局、190ページ参照。
(6)ノーマン・ハーベルは、預言者の召命記事には、預言者が召命を辞退したり躊躇する要素
 が必ずあると言っている(出エジプト記3:11、士師記6:15、エレミヤ書1:6、イザヤ書6:11、
 エゼキエル書2:6、8、イザヤ書40:6ー7)。Norman Habel, The Form and Significance of
 the Call Narratives, ZAW 77(1965), pp.297-322.
(7)木田献一『旧約聖書の中心』、57ページ。(8)マックス・ウェーバー、前掲書、77ページ。