柄谷行人を解体する

批評家・柄谷行人を―カント、マルクスを視軸にして―読む

汪暉『思想空間としての現代中国』(岩波書店)

汪暉『思想空間としての現代中国』(村田雄二郎・砂山幸雄・小野寺史郎訳、岩波書店

近代国民(ネーション)‐国家(ステート)の形成は、方言を基礎とする書きことばの創出と明らかな関係がある。このことはすでに多くの学者が注目している(1)。

ダンテ以降、ヨーロッパの多くの国では類似の事態が起こったし、東アジアでは日本と韓国が前後して自国の方言をもとに漢語の影響力に対抗し、民族(ネーション)の書きことを創造しようとした。以上のような理由から、柄谷行人デリダ『グラマトロジーについて(On Grammatology)』を論じる際、繰り返し強調したのは、音声中心主義(phonocentrism)は「ヨーロッパ的」問題ではなく、国民‐国家の形成において「世界的に、例外なく、こうした問題が生じている(3)」ということであった。

(1)柄谷行人民族主義与書写語言」(陳燕谷訳)『学人』第九号、一九九六年、九五頁。〔原題 "Nationalism and Ecriture" 1981、のち『ヒューマニズムとしての唯物論』(筑摩書房、一九九三年)に「エクルチュールとナショナリズム」の題で収録〕

(3)柄谷行人民族主義与書写語言」『学人』第九号、九四頁。