ジョイスのユリシーズのナウシカ

「風の谷のナウシカ」の

♪ラン、ランララ、ランランラン

が「君が代」のメロディ進行に似ていると思った。

ジョイス『ユリシーズII』（丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳、集英社）

第二部　13　ナウシカア

　このときジャッキー・キャフリーが、ごらんよ、またあがったよと叫び彼女がもっと上体をそらすと透きとおるストッキングによくうつる青いガーターが覗いてみんなが見あげながらほら、ほら、あそこにと叫び彼女が花火を見るためにますますそり返ったとき空中に何か奇妙なもの、暗く、柔らかいものが右へ左へと飛び交うのが見えました。そして彼女の視野のなかでローマ花火が尾を曳きながら木立ちを越えて上へ、上へと登りはじめ、みんなが興奮のあまり息を殺し、張りつめた沈黙のなかでみつめていると花火は高く、さらの高く昇りつづけ、彼女もそれが空高く、ますます高く、ほとんど見えなくなるまで昇りつめるのを目で追いながら弓なりにますますそり返り、無理な姿勢になるにつれてその顔には神々しいほど魅惑的な赤味がさし、いままで以上にいろいろなものが彼の目にとびこんできて、肌を愛撫する薄い錦の下ばきは白いので四シリング十一ペンスの緑いろの下着よりもずっとよく見えるし彼女が隠そうともせずに彼の視線を受けとめているうちにあまりにも高く昇った花火が一瞬見えなくなり彼女はそり返りすぎて手も足もからだじゅうが震えはじめぶらんこや渡渉のときですら人目にさらしたことがない膝よりずっと上のほうまで何もかも彼に見えてるのに恥かしいと感じないし彼のほうもあんなに露骨にみつめてて恥かしくないのは思わぬ贈物みたいなこの丸出しの絶景を見のがす気にはなれないし紳士たちの目の前でこれ見よがしに踊りまくる短いスカートのダンサーの場合と同じように彼はひたすら見て、見つづけているのです。

「風の谷のナウシカ」で、ナウシカのパンツが見えると
問題にする人がいたが、上記のガーティ（「オデュッセイア」のナウシカ）の
エピソードを考えると、ナウシカが全編スカートをヒラヒラさせていたのは
当然なのかもしれない。